与えられるならば

「チリちゃんさあ」
「んー?」
「耳たぶにいっぱい穴あいてるね?」
「そらそうやんな?」

 フロスのようなものを使ってピアスホールの手入れをしていたチリちゃんは、私をちらりと見やった。

「どないしたん、今更」
「穴空いてるね?」

 まじまじとピアスホールを観察する。ちっちゃい穴がいち、に、さん、よん……。なんとまあ、形のいい耳に穴が4つもなんて。

「ちっちゃくて可愛いね」
「なんやねんそれ」

 チリちゃんは小さく噴き出した。

「せめて美人さんやろ、そこは」
「じゃあー、チリちゃんはピアスホールまで美人さんですね」
「なはは」

 チリちゃんはピアスホールのお手入れを終えたらしい。片付けをしながら「チリちゃんが穴あけよか?」と提案した。

「えっ、やだ痛そう」
「痛いのは否定せんよ。でも、安定したらチリちゃんとお揃いのピアス付けれるで?」
「それは魅力的だけどさあ」

 チリちゃんみたいに4つも片耳に開けるのは怖いなあ。1つならなんとかなりそうかな。でも、今は覚悟が決まっていない。

 渋る私の姿に何を思ったのだろう。チリちゃんは私の耳たぶに触れた。

「何、チリちゃん」
「覚悟決まったら言ってな。絶対チリちゃんがあけたるから……」

 すり、と親指と人差し指で耳たぶを揉まれる。ポケモン勝負の時のような真剣な眼差しだった。

 ズルいなあ、チリちゃんてば。
 チリちゃんのそのピアスホール、自分であけたものなんだろうか?

 私以外の誰かにあけられたのだとしたら、お腹の中がむかむかして、【はかいこうせん】を相手に撃ちたくなってしまいたくなるくらいの衝動に駆られる。

 私の知らないチリちゃんを知っているのかしら。

 チリちゃんは昔のことはあまり語りたがらない。
 知りたい気もするけれど、私にはまだ受け止められる度量がない。ピアスホールと同じ。痛いのは嫌なのだ。

 ああ、でも。
 もしもこの人が最初で最後なら。
 与えられる何もかもは、――痛いのも、この人からだけがいい。

「……キズつけられるならチリちゃんだけがいいなあ」

 チリちゃんが動きを止めた。目がまん丸くなった。

「だから、チリちゃんも私以外にキズつけられないでね」
「穴もうひとつ増やそかな……」

 チリちゃんは少し頬を染めてポツリと呟いた。

【終】

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