どうあがいても証明写真

 いわゆる「今時の若いもん」の部類には入らなくなった私であるが、これは「イケてない」くらい分かるもんだ。

「アオキさん、こっち向いてくれません?」
「はあ……」
「溜め息ついてる場合とちゃいますよ。何回撮り直ししてると思ってます?」

 カメラを構えるチリさんは明らかに苛立っていたが、アオキさんはどこ吹く風といった調子だ。

「……何回ですか?」
「あっ私に振るんですか。えっと15回くらいです」

 私の答えにチリさんは目を剥いた。

「観念して顔見せてください」
「目立ちたくないので」
「逆に目立ってんねん」

 頭を抱えるチリさん。気持ちはよく分かります。融通利かせてよ、アオキさん。

 事の始まりはリーグトップのオモダカさんが「四天王のグッズは需要があるらしいんですよ」とたおやかな笑みを浮かべたところから。なんでもパルデア以外の地方ではジムトレーナーや四天王、はたまたトレーナー界隈での有名人のブロマイドやキーホルダー、マスコットが作成・販売されているらしい。

「我々リーグもこれを導入しようと思います」

 まずはパルデアリーグ四天王とチャンピオン、一部のジムリーダーで試作することになった。それで、まずはテスト生贄としてチリさんとアオキさんが選ばれ、グッズ用の写真を撮影していたのだけど……。アオキさんが後ろを向いてしまうのでグッズに写真が使えないのだ。

「誰がアオキさんの後頭部のグッズ欲しがんねん」
「逆に訊きますが、自分のような平凡な男のグッズを欲しがる人間がいるのでしょうか」

 ここにいます! と諸手を挙げて叫びたかった。私、アオキさんの密かなファンだから。見た目に反していっぱい食べるし、ご自身に似てるからってノーマルタイプのポケモンを選ぶところが面白い。

 それにアオキさんは平凡や普通を愛しそれを目指されているようだけれど、四天王とジムリーダーを兼任している時点で普通ではないように思う。私から言わせたらアオキさんは十分個性的だ。って話したら、きっと嫌がるんだろうな。

「なあ、自分からもなんか言うてやって」
「えっ、私がアオキさんに?」

 チリさんは何回も首を縦に振った。

「なんかやる気の出るひと言頼むわ」
「んんー?」

 やる気の出るひと言!? 何がいいの!? ええと、あっそうだ! アオキさんが好きそうなものをご褒美として提示させたらいいのでは?

 頭を必死にフル回転させ、私はアオキさんに向かって叫んだ。

「アオキさん! ちゃんと写真に写ってくれたらおにぎりたくさん作ります! 何十も何百も作ってやりますとも!」

 瞬間、アオキさんは目をカッと見開いた。

「分かりました。あなたの作るおにぎりは美味いので、一度腹いっぱい食べたいと思っていたんです」

 そこから素直に写真撮影に応じたアオキさんは、見事ネッコアラとのツーショットを決めたのだった。

 後日グッズを拝見したが、アオキさんはポーズを決めず直立不動の姿勢だったから、履歴書に貼ってある写真のような出来栄えだった。

「なんかこう……等価交換になっていない気がするなあ……」

 とはいえ、美味しそうに私のおにぎりを食べるアオキさんが見れたのでよしとしこうかな。

【終】

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