転売ヤーの一件から数日が経ち、判明したことがある。
「どうやらあなたさまは、ポケモンが次に出す技がお分かりになるようですね」
「――えっ、普通は分からないんですか?」
***
あのゾロアークから託されたゾロアに名前をつけた。
しらゆき――。
女の子だし、雪の中で出会った子だし、と迷った結果、なかなかいい名づけができたんじゃなかろうか。
ギンナンさんをはじめとした商会のメンバーから「奇跡が起きた。まともなセンスだ」と驚かれたのは、ちょっと納得いかないが。
さて、1週間の謹慎を終えて、久しぶりに外出の許可が下りた。
というか、シンジュ団へ菓子折りを持ってお詫びに行くから同行しろ(元凶なんだから)、という感じである。
謹慎前に行かなかったのは、私の怪我があまりにも酷かったためでもある。見た目ほど痛くはないんだけど、色んな人に驚かれたり心配されたりするので、もう少し傷が癒えてからと日程が先送りになったのだ。
今回はギンナンさんと私で、シンジュ団の長・カイちゃんと面会した。
「この度はご迷惑をおかけして、申し訳ございませんでした!」
開幕、私はすぐさま土下座を決め込んだ。
「そして助けを呼んでくれてありがとうございましたー!!」
「少しは真面目にしてくれよ……」
隣でギンナンさんが呆れたように呟いた。失敬な、私は真面目ですからね!
「顔を上げてほしい。今回のことは、わたしにも責があるから」
長モードのカイちゃんは、威厳を出すためか口調がいつもより大人びている。
「今回の件、わたしが無理を言ったせいだ。まさかあの、てんばいやーなるものに遭遇するなんて、誰も予想していなかった」
彼らは人知れず悪事をはたらいていたから、と暗い口調で言った。
確かにね、盗賊どころかもっと酷い悪事に手を染めていたみたいだし……。転売よりもっと厄介な事件がシンジュ団に降りかかっていたかもしれない。
「むしろ、機転を利かせて彼らに立ち向かった彼女は称賛に値する。我々の生活を守ってくれたと言っても過言ではない」
「えへへ、いやあ……」
「調子に乗らない」
「はい、すみません……」
ギンナンさんに釘を刺されてしまった。「新人係」と一緒に外出しろって約束を破っているから、当然注意しますよね、はい。お口チャックしときます。
その後はギンナンさんが会話の主導権を握り、今回のお詫びの品や今後の商談について、テキパキと分かりやすくカイちゃんへ伝えた。
「そうか。今後はコトブキムラに腰を据えるのか」
「はい。といっても、行商の形を取ることは変わりません。商会全員でヒスイ各地を回って商売をしてきましたが、人数も多くなりましたので、各地に商人を配置して商売をします」
ギンガ団の計らいで、コトブキムラに拠点を置けることになったんだ。
シンジュやコンゴウの集落には数名ずつ残り、仕入れと販路はそのまま広げていく。
だから、これまでみたいな長旅はもうしばらくない。私はギンナンさんと、そしてウォロと一緒にコトブキムラへ向かうことになっている。
「商会の連中が数人シンジュ集落に残りますので、珍しい品がご入用の際はお声がけください」
「分かった。あなたたちの商品は珍しいものが多く、シンジュ団のいい刺激になっているんだ。イチョウ商会の更なる繁栄を願っている」
「ありがとうございます」
ちなみに、シンジュ団への無償奉仕は追って通達するとのこと。何をさせられるんだろう。簡単なものだといいなー、なんて。いや、真面目にやりますけどね。
さて、大事な用事も終わったので、帰るとしましょうかね。
「そうだ。新人さん、あなたはちょっと残ってほしい」
「えっ」
カイちゃんと一対一でお話イベント発生……!? あっ、ギンナンさんの「おまえまた何かやったのか」的な視線が突き刺さるぅ!
「私に用事が……?」
「ああ、用事があるのはわたしではないんだ。――どうぞ、入って」
カイちゃんの合図で、部屋に誰かが入ってきた。一体誰なんだろう。
「――あ」
振り返り、私は驚愕する。ああ、なんということでしょう!
「初めまして、イチョウ商会の新人さま。わたくし、キャプテンのノボリと申します」
「サブウェイマスターのノボリさんじゃないですかー!」
おのれアルセウスー! ここで規制音入れるのはやめろー!
***
ノ、ノボリだー! サブウェイマスターの人だー! 双子の人だー!
前世では二次創作をたくさん読ませていただきました。だって双子ってエモいからー!!
っとと、落ち着け、落ち着け。深呼吸。今はね、そんな場合じゃないの。
「どうされましたか?」
「なんでもないです」
カイちゃんとギンナンさんが退出した長の部屋で、私はノボリと膝を突き合わせていた。
こうして改めて見ると、歳を取っているのが分かるなあ。顎髭が生えてるし、猫背気味だし、サブウェイマスターのコートも帽子もボロボロ。長い年月を経てきたことがひと目で分かる。
私の興奮具合もだいぶ落ち着いてきた。そうだったよ。はしゃいでる場合じゃなかった。この人、この世界では苦労してるんだもんな。何故か記憶喪失になって、ヒスイに漂着しちゃったんだ。
もし記憶がなかったら……。自分の立場に置き換えるとゾッとしてしまう。
「本題に入りましょう。あの時のポケモンとの戦闘について、色々お伺いしたいことがございます」
「はあ……。お話って、具体的に何を?」
転売ヤーの一件で接点は少しだけある。捜索隊に加わってくれたんだ。あの騒動で、ちょっとだけ顔を合わせていたな。
「オニゴーリとユキカブリを倒したときについて、詳細を知りたいのです」
「はあ……」
なんでそんなことを知りたいんだろう。
「あの日、倒されたポケモンの状態を調べてみました。わたくしの予想とあなたさまの取った行動が合っているのか、確かめたいのです」
「ええと……」
ポケモンの状態を調べて、何が起きたのか推理したの!?
……ま、まあ、隠すようなこともないしなあ。あの時のことを思い出してみよう。
「うちのレディー……グレッグルは体力が僅かで、主な戦力はゾロアとゾロアークだったんです。オニゴーリは特に強くて、束になっても敵わない。でも、ゾロアークが『しもやけ』状態になって、ピンと来たんです。状態異常にさせたら、倒しやすくなるなって」
「それで、グレッグルに【どくばり】を放ってもらったと?」
探るような目つきになるノボリ。
「はい! でも、『どく』で自滅を待つのは時間がかかる。決め手が欲しくて、ゾロアークたちに【うらみつらみ】を使ってもらいました」
「なるほど。確かに【うらみつらみ】は状態異常の時に威力が倍になりますが……。ああ、こおりタイプ相手に『しもやけ』は狙えないから、『どく』の選択肢を取ったのですね」
「はい! まあ、オニゴーリだけは倒せなかったけど!」
ふむ、とノボリは顎に手を当てた。
「……新人さまは、モンスターボールをお使いになりますね?」
「この地方の人は使わないけど、私は使いますよ。共存のための物でもありますから」
「なるほど……」
それきり、ノボリは黙りこくってしまった。
「ノボリさん?」
探る目つきは変わらぬまま、何かをじっと考え込んでいる。
気まずいなー。私が転生者だって気付いたわけじゃないよね?
「……実はわたくし、記憶を失っておりまして、何者なのか、どこから来たのかが分からないのです」
長い沈黙のあと、ノボリがゆっくり口を開く。
「今回少しだけ、思い出したことがございます」
ノボリの目に少しだけ、光が宿っていた。
「わたくしは、常に挑戦者を待つ身だったように思います。彼らの戦略や、それに応えるポケモンとの絆を通じて、わたくしたちを乗り越える……。あなたさまの戦略は、その方たちと似ております。わたくしの朧気な記憶でございますが……」
正解です!!
と、アルセウスに発言を制限されていなかったら叫んでいただろう。
そうなんすよ、ノボリの親分。あなたはめちゃくちゃ強いトレーナーなんだよ! バトル施設の元締めみたいなもんでしょ!
しかも双子の兄弟もいるし! マルチトレインで2人並んでる嬉しくなったよね。オタクは双子が好きだ(クソデカ主語)。
しかしね、今の私はアルセウスにネタバレを規制されている、しがないモブなんですよ。ノボリの記憶が戻る手伝い、してあげたいけどさあ……。無理そうなんだよなあ……。
なんて、ますますしんみりしていたところに、ノボリがとんでもないことを提案してきた。
「新人さん。よろしければ、わたくしとポケモン勝負をしてくださいませんか」
「えっ!?」
サブウェイマスター相手に!?
無理無理! レベル1装備で魔王すっ飛ばして裏ボスに挑むようなもんなんだが!? 努力値どころか性格厳選もしてねーよ!! いや、それはゲームの話なんだけども!
「いやあ、でもマトモに戦えるかなあ……」
「勝敗は関係ございません。わたくしは、ポケモンとあなたさまの関係性を見たいのです」
「それには勝負が一番ってことですか?」
「はい。記憶を思い出すきっかけにもなりましょう」
さ、さすがポケモントレーナー。勝負で全てを理解する……その姿勢は嫌いじゃないぜ。
ここで私は考える。アルセウスのお陰でノボリに全てを伝えることはできない。
原作改変中だから、もしかしたら主人公は来ないかもしれない。記憶を思い出すことは、この先ないかもしれない。
だったら、ポケモン勝負くらいやってもいいかもな……。これくらいなら、アルセウスだって邪魔しないでしょ。ノボリが自発的に記憶を思い出すだけだし。
前世で「ノボリ、早くクダリの所に帰ろう!?」って叫んだ身としては、これ以上ないチャンスだよな。
記憶を思い出す手伝いになるなら、やってやらあ!
「分かりました、やりましょう!」
「ありがとうございます。では、早速外へ参りましょう」
***
というわけで、粉雪が舞う中、ポケモン勝負が始まった。
「参りましょう。勝利、もしくは敗北、どちらに向かうのか。では、出発進行!」
ボールを構えたノボリは、どこか生き生きとしていた。……あ。やっぱこの人、記憶喪失でも根っからのポケモントレーナーだ!
ノボリの手から放たれたボール――飛び出すのは、ゴーリキー!
そして、ノボリの指差しポーズ。あー、その反対側、鏡合わせに同じポーズを取る人がいたんだよなっ!
「っし、行くかぁ、トゲまる!」
「チョッゲ!」
世界一可愛いぞトゲまるー!
「まずは【ようせいのかぜ】!」
かくとうタイプにはフェアリータイプの技よな!
トゲまるの起こした【ようせいのかぜ】がゴーリキーへ迫る。
「ゴーリキー!」
ノボリのかけ声で、ゴーリキーが拳を構える。
あれは――。
「【バレットパンチ】」
繰り出した拳から放たれた風圧が【ようせいのかぜ】を相殺。
その勢いでゴーリキーがトゲまるへ迫る。拳は構えたまま――また【バレットパンチ】が来る。
「いや……」
違うな。
構えを見た瞬間、何故かそう思ってしまった。腕の角度とか、足の運びとか? ううん、上手く説明できないけど、そう思っちゃったんだ。
「あれは【いわくだき】だ。トゲまる、避けろー!」
「チョゲー」
「ゴーリキー、地面へ【いわくだき】」
「ぎゃお!」
【いわくだき】が雪原にめり込み、無数の雪の塊が宙へ浮いた。
「げっ」
雪の塊がトゲまるに向かって落下する。そんな【いわくだき】の使い方ある!? そこまでは予測できないよ!
「ちょげぇ……!」
「わあー、トゲまるー!」
雪の塊はトゲまるへ全て命中してしまった。うわ、目を回してる。トゲまるは戦えなさそうだ。
「うお……ですよねえ。お疲れ、トゲまる」
私はトゲまるをボールに戻した。さて、次は、レディーで対抗だ。
「なんとかなるでしょ」
「ケッ!」
お次は【どくばり】で「どく」にしてからヒットアンドウェイ戦法でゴーリキーの体力を削るつもりだったが……。途中でノボリがグライオンと交代させ、企みは総崩れ。
レディー、しらゆきを倒されてしまい、私はノボリに敗北したのだった。
***
勝負を終えて再び長の部屋に帰ってきた。休んでください、と言われたのでイチョウ商会の詰め所に帰る前に一服していこうか。
「うーん、やっぱ悔しいなあー」
野生ポケモンを牽制できればいいだけなので、そんなに鍛えてなかったんだよな。転売ヤーの件もあったし、もっと強くなった方がいいかもな。
「お疲れ様でございました」
ノボリが穏やかな顔で声をかける。手には湯気を立てる湯呑み。中身はお茶だった。
シンジュ集落は年中雪だから、あったかい飲み物はありがたい。
「大変楽しい勝負でございました」
「そうでした……?」
半信半疑の私に、ノボリは何度もうなずいた。
「あなたさまの実力は大変高い。これからが楽しみでございます」
「記憶の方は?」
「……いえ、今回は残念ながら」
「そっかあ……」
そう都合よくいかないか。
「落ち込まないでくださいまし。わたくしの記憶は、少しずつ長い年月をかけて思い出すものなのでしょう」
お茶をひと口啜り、ノボリが言った。
「何者か分からない不安はありますが、受け入れてくださったシンジュ団、そしてポケモンたちのお陰で、わたくしはこの地で生きていくことができます。時が来たら、もしかしたら――」
その先は聞き取れなかった。けれど、希望はあるはず。そう言いたかったのかもしれない。
「それより、面白い発見がございました」
「発見、ですか」
「おや。お気付きではない?」
どうやら私に関することらしい。一体、何だろう? 期待と不安が入り混じった気持ちで、ノボリの次の言葉を待つ。
「どうやらあなたさまは、ポケモンが次に出す技がお分かりになるようですね」
「――えっ、普通は分からないんですか?」
寝耳に【みずでっぽう】ってこんな感じなのか!?
常識じゃないの、技が分かるのって。
「ポケモン勝負の経験が多ければ多いほど予測も可能になります。トレーナーならば、相手がどのような技を使うのか、図鑑で調べることもできましょう。しかし、あなたさまにはそのどちらもないように見える。構えを見て、無意識に判断されているのでは?」
ノボリは私に技が読まれている、と感じたそうだ。しかし、勝負の経験値が圧倒的に足りないから、技は読めても対応が追いついていないらしい。
「その的中率は十割。恐らく転売ヤーの件でも発揮されていたのではないでしょうか」
ここでノボリが、「はて? トレーナー、図鑑……?」と不思議そうに呟く。記憶の欠片を掴んだんだろうか。
いや、それより衝撃的なのは、私が特殊能力のようなものを持ってることだよ!
これってアルセウスのせいなの? 転生特典みたいな? それなら自分で選びたかったよー!
「嘘じゃん。皆、分かってると思ってたのに……。なんか頭の中で予感するじゃん……あの技だって……!」
「……一種の才能でしょう。わたくしは今までの経験則から予想しておりますから、外す時もあります。また、ポケモンというのは、必ずしも同じタイプの技を覚えませんから……」
「その分、予想が複雑になるってことか」
それは分かる。でんきタイプがいわタイプの技を覚えることだってあるし。
「あー。じゃあ、私のこれって、勝負事には強いのか」
「相手の行動が分かるというのは強いでしょう。打てる策は広がります」
「はえ~」
鍛えたポケモン同士を勝負させる――。
ポケモン勝負が浸透してないこの世界で、この能力は役に立つのか? まあ、転売ヤーたちの時は助かったけども……。あとは、野生のポケモンを相手にするくらいだから、ビミョーなのでは?
「使い道、ありますかね?」
「あります。トレーナーであれば欲しい能力でございます」
「トレーナーになりたいって目的はないんですよねえ……」
「わたくしとしては、その能力を活かし、是非ともポケモン勝負を極めてほしいところですが……」
ノボリは口元を緩め、諭すようにこう言った。
「わたくしには、あなたさまの目的に口を挟む権利はございません。その道がなんであれ……どうか、ポケモンと共に、なすべきことを――あなたさまの道を歩いていってくださいまし」
ノボリの言葉は深く重いものだった。
目的地……目的地かあ。
私の目的は、主人公たちのため。彼らがヒスイに来ないように原作改変をすること。
そのためにウォロの興味をアルセウスから逸らす努力をしている。
今は分からないけど、この能力があるのは、きっと意味があることなのだろう。
「――はい! ノボリさん、ありがとうございます!」
今回、私の方が色々得るものがあったなー。
見えない神に、心の中で祈る。
ノボリの記憶が戻るように――いや、イッシュ地方に早く帰れますように! 頼んだぞ、アルセウス。マジで。
「ところで、また機会がありましたら勝負してもよろしいでしょうか?」
「あっ、もっと強くなってからでお願いしまーす!」
ノボリのトレーナー、いや、サブウェイマスター魂に火を点けてしまったかも……。
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夢主の 賢さが 2上がった▼
夢主の ポケモン勝負の強さが 5上がった▼
ノボリの 夢主への好感度が 5上がった▼
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