※開ける描写はさらっと流します。メインはいちゃいちゃしてる描写です。
※いちゃついてる場面を恥ずかしがらずに書こうとした習作になります。
ある日のこと。
隣に座る恋人の横顔を眺めながら、私はこんなことを呟いた。
「私も開けようかな、ピアスホール。キバナくんとお揃いのピアスつけたい」
「じゃあ、オレ様が開けてやろうか?」
「え」
「ん?」
テレビを観ていたはずのキバナくんが、私を見つめている。相変わらず顔がいい。横顔が格好いいなら真正面からの顔も格好いい。当たり前だ。この世の心理だ。
恋人になってもまだその顔の良さに慣れない。キバナくんが近付こうものなら私の心臓が止まる。
「多分、私死ぬ。密着度が高すぎる」
「じゃあピアス諦めるか?」
「自分で開けられるよ。ピアッサー買ってくれば楽勝でしょ。キバナくんも自分で開けたんでしょ?」
「まあなー。でもなー、オマエに開けられるか?」
「大丈夫だって!」
キバナくんとお揃いのつける! と意気込む私に、キバナくんはにやーっと笑いつつ言った。
「絶対オマエひとりで開けられないと思うな、オレ様」
キバナくんと私の予定が合ったのは、それから2週間後のことだった。
お店で購入したピアッサーや消毒液などを持って、キバナくんの家に訪れた。開けるならオレ様がいるときにして、とお願いされたので今日まで待っていたのだ。
「じゃ、早速やります!」
「おー、頑張れ」
手指を消毒したり耳たぶにマーカーペンで目印を書いたりする私を、キバナくんは面白そうな顔して見守っている。
ピアッサーを出して、テーブルに肘をついて、曲がらないようにして……。
「いきます!」
「いちいち宣言しなくていいって」
「よし!」
5分後。
「やるぞ、やるぞ!」
「頑張れ頑張れ」
更に10分後。
「ふう……よし、【きあいだめ】したから今ならいける」
「気合いもいいが、早く開けろって」
更に30分後。
「…………今日はここまでにしておいてやる」
「悪役の捨てゼリフだな。何も始まってないぜ」
更に40分後。
「今から開ける! 開けるぞおお!」
「早くやれよ」
「っくくく! はははははっ!!!」
遂にキバナくんが噴き出して大爆笑した。まさに腹を抱えて笑っている。
「はははははっ!! まさかここまでやれないのかよ! ははははははははっ!!」
「ちょ、そこまで笑わないでよ!」
「本当にオレ様の予言通りになるとは思わなかったんだよ!」
「しょうがないじゃん! いざとなったら、こう……怖くなって……」
よく考えれば自分の耳に穴開けるのってハードル高い。注射は苦手じゃないけど、やっぱり自分に尖ったものが向かってくるとか、怖いにも程がある。そういえば私、初めてコンタクトするのにもめちゃくちゃ時間かかってたな……。だって目に異物入れるんだよ? 怖いじゃん。
「はー。笑った笑った。楽勝って言ってた2週間前のオマエに聞かせてやりてぇな」
「うう……」
笑いすぎて出てきた涙をキバナくんは拭う。
「可愛いヤツ」
その微笑みの写真を撮ったら、何千人というファンが死ぬことを分かっているのだろうか。
「というか、私可愛くないし……」
キバナくん、すぐ可愛いって言う。私の容姿は平々凡々だ。
「ほら、オレ様が開けてやるから」
「はーい……」
このままだと日が暮れる。キバナくんに開けてもらおう。
「そもそも、どうしてピアスなんだよ。イヤリングはダメか?」
「イヤリング、いつも片っぽ行方不明にするから。ピアスなら、その確率も減るでしょ?」
「ピアスでもなくすときはなくすぞ?」
「いいの! もしかして、キバナくんは開けるの反対?」
「何でだよ。そういうのは、本人の自由だろ。……怖がってるなら無理矢理開ける必要もないって、言いたかっただけだよ」
頭をぽんぽん撫でられる。
「ま、オレ様に任せとけ」
「お手柔らかに……」
自分でやる恐怖を取るか、キバナくんの顔の良さに戦々恐々としながら開けてもらうかなら、まあ、後者だよね。
「……相変わらずカッコいいね、キバナくんは」
「手元狂うからやめろ」
キバナくん、カッコいいなんて言われ慣れてるはずなのに。私が褒めると違うらしい。照れるんだって。
キバナくんはピアッサーを持ち、空いてる手で私の右耳に触れた。ふにふにと耳たぶを揉まれる。
「あのー、キバナくん?」
「悪ぃ悪ぃ。オマエ、耳小さいな?」
「んっ」
私はぴくん、と身体を震わせた。なんか、手つきがえっちいんですがそれは。
耳の穴の入り口にキバナくんの指が入ってきて、穴の淵をゆっくりなぞる。
「ね、そこピアス関係ない」
「んー」
ふにゃりと笑うキバナくん。か、可愛い……じゃなくて、
「キバナくん――っ!?」
息 吹 き か け ら れ た。
耳がぞわぞわするー!
「な、ちょ、キバナくんふざけてるでしょっ!」
「ふざけてる」
「なーんーでー!」
「オマエが近くにいるからだな。ちょっかい出したくなるんだよなー!」
「のあっ!?」
耳噛まないで! 舐めないで! はむはむしないで! 変な気持ちになるからやめて!
「ひぅ! キバナくん!」
「んー?」
「開ける気あるの?」
「ある」
めちゃくちゃねっとり舐めてくるじゃん、キバナくん。ピアス開ける気配ゼロじゃん、キバナくん。わ、キスされた。びっくりした。とてつもなく甘やかしてくるじゃん……。
しまいには私をその腕の中に閉じ込めてしまった。キバナくんの香水の匂いがする。胸の奥が疼く。大好きな人の、大好きな匂い。はぁ、と私は溜め息をついて、抱きしめ返す。
……鼓動が早い。私、今日死ぬのでは? キバナくん多量摂取は心臓に悪い。
キバナくんは私の頭の天辺に顎を乗せ、しみじみと呟く。
「はぁ-。そもそもピアス開ける理由が、オレ様とお揃いのピアスしたいからって。可愛すぎるだろ……」
「うぅー、力強い。緩めて緩めて」
「あ、悪い」
しかしキバナくんは私を解放してはくれないのだった。
「ピアスー」
「もう少しこうしてていいか?」
「うん」
「というか、ベッド行かねぇ?」
「……えぇ?」
まあ、はい。こんなに密着されたら、そうなるよね。正直、私もピアスどころではなくなってしまった。
「キバナくん」
「ん?」
「終わったら、ピアス開けてね。約束だよ」
ちょっと離れてね、という意味でキバナくんの胸を叩く。少し自由になった私は、お返しとばかりにキバナくんの耳に唇を寄せた。
「あのね、」
「私に傷をつけていいのは、キバナくんだけだよ」
結果、キバナくんはバトルするときの目つきになって、私にたくさんの傷を付けたのだった。
怖かったです、ホント。試合中のキバナくんの表情のまま痛いのも気持ちがいいのも貰ってしまったから、今後試合中継を観るときに支障が出るかもしれない。困った。
ちなみにピアスホールは無事、両耳に出来た。
痛かったけど、それよりピアッサーの音に驚いてしまい、痛みを自覚するのが遅れた。結果オーライってやつだ。
むしろ、キバナくんとの直前の行為の方が痛かったまである。首や肩の噛み跡がね……うん。この話はやめよう。
ピアスホールが安定したら、ファーストピアスからキバナくんとお揃いのピアスに付け替える予定だ。
あ、そうそう。
「……ピアス以外もお揃いのつけたいよなあ。例えば、指輪とか」
と、キバナくんが言っていた。
その日が来るの、楽しみに待ってるね。
【終】
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