第3章:転売ヤー絶許 - 5/12

 転売ヤーについて色々思うところはある。
 だけど、ウォロの言った「目が離せないんですよ」ってどういう意味なんだろう?

「うーん。つまり、おもしれー女になれてるってこと?」
「けひゃひゃ」
「ちょっきぃー?」

 トゲまるとレディーとシンジュ集落を歩く。集落から出なければ、ひとり外出はオッケーなのだ。

 ここはコンゴウ集落と同じで、ポケモンを出しても変な目で見られることはない。コトブキムラは個人的に居心地が悪い。ポケモンに関すること以外なら皆、優しいんだけどさ。

 今日の仕事はおしまい。私は早番だから日が沈む頃になると退勤を促される。前世で言うところのホワイト企業(?)みたいなものだな、イチョウ商会。

「ウォロの考えていること分かんないよな。あーあ、ウォロ限定で心読めたらなー。私、ちゃんと原作改変できてるのかな」

 目が離せない、というのは興味を引けている証拠なんだよね?

 でも、もしかしたら、危なっかしいって意味で目が離せないのかもしれないな!

 はっはっはっ。
 ……それでもいいか!

 世界を作り変えたら、私みたいな人間、いなくなっちゃうからさ。おもしれー女が生きるこの世界を存続させるためにも、ギラティナと手を組むのはやめてくれ!

 あー。ウォロの動向を探れないのが痛いなー。

「うーん。早くひとりで外出したい」

 自由に外出できないから尾行という手が使えない。先輩方に「ウォロ先パイを尾行しましょう」とか提案したら絶対引かれるし、医者に連れて行かれるだろうな。それはちょっと勘弁願いたいわ。

「いっそ、レディーたちが野生のポケモンを装って尾行する? なあんて。さすがにポケモンの言葉分かんないし、複雑な状況説明は無理無理」
「んー」
「あいてっ。レディー、何で私の足に突きを入れるのさ」
「んー!」
「だから何で突くの」
「おーい! しょうにんのおねえさーん!」
「おねーちゃーん!」

 声のした方へ顔を向けると、集落の子どもたちがこちらに走ってくるのが見えた。
 どうやらレディーは子どもたちのことを知らせたかったようだ。

「ねえねえ、仕事終わったの?」
「遊ぼ遊ぼ!」
「ごっこ遊びしよー」

 わらわらと集まってくる子どもたち。

 風邪が流行っているのに、この子らは元気だな。

 仕事の合間に遊んであげていたら、子どもたちとすっかり仲良くなってしまった。

 子どもを相手にするのは好きだ。ウォロから「後輩さんの精神年齢が、子どもと同じだからかもしれませんね」って言われたが、これって褒め言葉じゃないよね? 貶してるよね?

「何して遊ぼうか。鬼ごっこでもやるか?」

 もう日が暮れるし、かくれんぼはダメだろう。子どもはただでさえ小さいから、暗くなったら姿を見つけにくい。

「空間ごっこはー?」
「ごめん。それはお姉ちゃんが分かんないんだよな」

 正直、ルールが謎過ぎて分からん。たまにあるよな、子ども独自の謎の遊び。この間付き合ってあげたら「お姉ちゃんの負けね」って言われてさー。敗因はなんだったんだ。

「鬼ごっこは?」
「やだー」
「んー。じゃあ、だるまさんがころんだ、やるか?」
「やるー!」
「おねえちゃんが、おにやってね」
「しょーがねえなー。言い出しっぺだかんなー」

 私はストレッチを開始する。やってやんぞー。

「……あれ? かえったんじゃなかったの」
「なんだよ、あきたってかえったくせにー。やっぱりあそびたかったんじゃん」

 ふと顔を上げると、シンジュ団の服を着た子どもが、木の影からそっとこっちを窺っていた。
 子どもたちの様子から察するに、飽きたから帰ったけど、寂しくなって戻ってきたパターンだな?

「はずかしがるなよ。あそびたいならあそぼ」

 こくり、とその子はうなずいて、ミミロップのように跳ねながらこちらに駆けてくる。

「だるまさんがころんだ、やるよ」
「しょうにんのおねえさんがね、おにやってくれるって」
「きょうはすっごくおとなしいな。そういうあそびか?」

 子どもたちの準備が整ったようだ。トゲまるとレディーも参加するつもりらしい。いいね、ポケモンとこういう遊びできるの。

「いいか? 分かってると思うけど、私が向こう向いて『だるまさんがころんだ』って言ってる間だけ動けるんだからな。言い終わってそっち向いた時に動いてたら、捕まるんだぞー?」
「わかってるよー!」
「はやくー!」
「いくぞー! だーるーまーさーんーが――」

「おねえちゃんつよい! おにじゃなくなっても、つよい!」
「おねえさんのポケモンもすごい!」
「そのたいせいでとまるのむずかしくない?」
「ふっ。これでも鍛えてるんだぜ……。鬼の体幹目指してるから」
「おに……? たいかん……?」

「いや、さすがにうちのレディーが鬼はキツくない?」
「んんー!」
「やれるっていってるよ?」
「マジ? じゃあ、試しに……」
「んーんーんーんーんーん、んーんーんーんっ!」
「……リズム取ってるのは認めるわ。でも分かりにくいって。鬼は違う子にしよう」
「んー!」
「あいたっ! 脇腹を突くんじゃない!」

「あ、おねえさんうごいた!」
「はあ? 動いてないって! 今のはセーフ!」
「ええ? 動いてたよね、みんな」
「うん」
「うん」
「のがれられないじじつ」
「味方ひとりもいないー!」
「おとななのに、おーじょーぎわがわるいもん、おねえさん」

 そうやって、いっぱい笑って遊んでいるうちに、すっかり空は夜の色になっていた。
 うーん。はしゃぎ過ぎた。この子たちを家まで送ってあげよう。 

「あー! たのしかった!」
「おねえちゃん、かたあしだちでずっととまってた! すごいね!」
「ふふん、そうだろそうだろ」

 カラミンゴの真似です。つってね。他の地方のポケモン出しても分からんだろうから、言わないでおくか。

「――あれ。そういえばあいつは?」
「あいつって……? ああ、あとから来た子?」

 そういえば、いつの間にかいなくなってるな。

「あいつ、ちょっときょう、へんだったよな」
「変?」

 そうだよ、と子どもたちのひとりが言った。

「ひとこともしゃべんないの、おかしいだろ」
「まあ、そうかもね……?」

 そういえば、あの子ってお喋り好きだったし、子どもたちの中でも仕切りたがりでもあったような……? そんでもって、オリジナルの遊びを思いついては即実践する感じの子だったような……?

「てっきり、喋ったら負け、みたいな遊びしてんのかと思ってたよ。あの子、面白い遊び考えてくる子でしょ?」
「おれもそうおもったよ。はやくあそびたかったから、あんまりきにしなかったけどさ。やっぱへんだったって」
「体調悪かったのかな」

 もしそうなら、気付いてあげればよかったな。私、この時代ではもう成人しているわけだし。悪いことしちゃったな。

「けっ」
「いっ! ちょ、レディー何でまた私の脇腹突くの……」
「――おーい! みんなー!」

 向こうから誰かが駆けてくる。
 あれって……。

「もうよるだよ、はやくにかえってこいってかあちゃんたちが――あ、しょうにんのねえちゃんだ」

 噂をすれば何とやら。いつの間にかいなくなっていた子どもが現れた。

「なんだよ、ねえちゃんいるなら、いえにかえらなきゃよかった」
「はあ?」

 待て待て待て。

「君とはさっき、一緒に遊んだじゃん?」
「え? いまきたばっかりだよ?」
「そんなはずない。だっておれたち、さっきまでおまえといっしょにあそんでたぞ!」
「そんなはずない、はこっちのセリフだよ! あきておうちかえって、いままでずっと、かあちゃんのてつだいさせられてたんだもん」
「ウソだー!」
「ウソじゃないもん!!」

 嘘をついている感じではない。だるまさんがころんだで遊んだあの子より、今、こうして話してるこの子の方がいつも通りの子というか。不自然じゃないっていうか。

 というか、何であんなに頑なに喋ろうとしなかったのだろう?

 むしろ、喋れない、とか?
 言葉を知らない、とか?

「……じゃあさっきまであそんでたおまえは、だれなんだよ」
「しらないよ!」
「うそつくなよ」
「ついてない!」
「あー、こらこら。取っ組み合いはやめなさい」

 喧嘩に発展しそうなので、慌てて仲裁に入った。どっちも嘘はついていないはずだ。

 宥めているうちに、誰かが「ねえ、もしかしてユーレイじゃないの?」と呟いた。途端に子どもたちが騒ぎ始める。恐怖が一瞬で広がった。

「やだこわい!」
「かえろう!」

 幽霊かもしれない発言で子どもたちの興味の対象はそちらに移り、喧嘩の空気はなくなった。とりあえず、もう今日は遅いから、全員を家に帰した方がいいだろう。

 トゲまるとレディーに協力してもらい、子どもたちを慰めつつ、全員を家まで送り届けた。

「……喋れない、か……」

 この間、穴に落ちるところだった私を助けてくれた朱い瞳の女の人も喋れない感じだったな。

 そして――。

「昔遊んだあの子も――」

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