深夜0時、サンタの役目を終えて

「……気付かれなかった?」
「ああ、問題なかった。あれは朝までぐっすりだぜ」

 12月25日、深夜0時。
 私たちは今年も無事、サンタクロースの役目を果たせたようだ。 

 プレゼントを置いて子ども部屋から帰ってきたダンデは、私から果実入りのホットワインを受け取ったあと、隣に座った。

「今年もサンタさんお疲れ様です」
「キミもお疲れ様」

 マグカップをカチンと合わせて乾杯。
 味は――うん、美味しい。スパイス入りにして大正解!

「美味いな、これ」
「飲みすぎちゃいそう……」
「おかわりしたいぜ」
「寝る前だよ。セーブしてね」

 ダンデは残念そうにうなずいた。

「それにしても……。今年はプレゼント選び、大変だったな」
「ねー? 『今年は欲しい物ない』って言い出した時はどうしようかと……」
「本当に欲しい物がなかったわけじゃ、ないんだろ?」
「なんかね、背伸びしたかったみたい」

 私は短くうなずく。

「友達の前でさ、『何も欲しがらない自分』がカッコいいって思っちゃったんだろうね」

「なるほど……」

 少し考えたあと、ダンデが膝を叩いた。

「――なんとなく分かった。リザードンに【かえんほうしゃ】を覚えさせるのは定番だが、奇を衒った技構成で攻めるということか」
「ダンデがそれで理解しているなら、そうだよ」

 ポケモンで例えて理解する旦那なのだと知っている。私にはまだ分からない世界だけども。

「なんとか聞き出せてよかったなあ」
「ホントにねえ。クリスマスにサンタさんから何も貰えないなんて、可哀想だよ」

 起きたらとっても喜ぶんだろうな、と思わず頬が緩む。ふふ、今から楽しみ。

「うちの子は、いつまでサンタを信じるかな」
「あと5年くらいは信じてくれるんじゃないか」
「ダンデはいつまで信じてた?」
「オレか……?」

 どこか遠くを見るような目つきでダンデは答えた。

「そうだな……、チャンピオンになるまでだったかもしれない」
「あー……」

 じゃあ、10歳か11歳くらいなのか。

「あの頃からハロンの実家に帰ることが少なくなったんだ。サンタの代わりに母さんやローズさんからプレゼントを貰えるようになって……」

 ダンデがマグカップの縁をなぞった。 

「だんだん、そういうことなんだろうな、って理解した」
「それは、その、なんていうか……」
「悲しい思い出なんかじゃないぜ!」

 ダンデがにっと笑った。

「代わりにクリスマスは堂々と好きなものをねだれるようになったからな!」
「遠慮してたの、サンタさんに?」
「いい子だったからな、オレは」

 自分でいい子って言うのが、らしいよなあ。

「ちなみに何をねだったの?」
「きのみと“マックスアップ”と“キトサン”とわざマシンと……」
「んふふ、ダンデらしいね」

 さすが最強のチャンピオンだっただけあるね。

「キミはどうだったんだ?」
「え」

 私はドキリとした。話の流れ的にそうなるよね。うーん、気が進まないなあ。

「……笑わないでね」
「内容による」
「そこは嘘でも笑わないって言ってよね」

 私は景気づけにホットワインを煽った。

「あのね、中学生まで信じてたの……」
「中学生?」
「14歳までだよ。おばあちゃんが見事に隠し通してたの!」
 
 枕元に置いたクッキーは、必ずなくなっていた。
 手紙を書けば、ちゃんと返事もあった。

 真面目な人だったから、夢を壊さないためなら、手間も惜しまなかったんだろう。


「友達からバラされたりは?」
「まあ『お父さんたちなんだよ』と言われたことがあったけど、ほら、うちは両親いないから、それは信じなかったの。おばあちゃんに訊いても『サンタはフィンランドにいます』って言うからさあ……」

 結局、中学の頃の友達が「親に決まってんじゃん」と教えてくれたので――というかクラスの全員から「サンタはフィクション」と言われ――ようやく私は、ひとつ大人になったわけだ。

 ――という経緯を話したところ、

「キミは純粋だったんだな」

 なんて、ダンデがしみじみ呟いた。

「もしかしたら、うちも14歳まで信じるかもしれないぜ?」
「わー! ちょっとそれはなあ。あんな恥ずかしい思いさせたくないよー!」

 でも、ありえるか。私の血が半分入っているんだもの……。

「いつカミングアウトする?」
「しなくていいんじゃないか。自然に気付いてくれるだろう」
「ダンデの血に賭けるってことお?」
「そうだぜ」

 うーん。ダンデの血が勝つことを願おう。

 私は残り少なくなったワインを一気に煽った。

「飲み終えちゃった」

 身体がほこほこと温かくなる。アルコールが効いてる感じがする。

「おかわりする?」
「いや……」

 ダンデが私のマグカップをひょいと掴み、テーブルに置いた。

「ダンデ? ん……」

 ついでにキスが降ってくる。ちゅうと吸いつかれて、私の心の奥がきゅうとすぼまった。

「ん……。はは、ワインの味がするぜ」
「むぅ……。どうしたの」

 ダンデが私の胸の辺りに頬を擦り寄せた。

「甘えたモードなの?」
「たまには、な」

 増えた温もりを感じながら、私はダンデの頭を撫でる。随分大きな子どもだなあ。

「明日もタワーでしょ?」
「午後からな。クリスマスホリデー中のガラルの街は、皆少しばかり寝坊助なんだぜ」
「……確かに。日本と全然違うもんねえ、その辺り」

 日本人は逆に勤勉過ぎるのかもしれない。

「キミ、もう少し夜更かしできるか?」
「キスで目が覚めちゃった」
「じゃあ……」

 ダンデがまた私にキスを落とす。

「もう少し、付き合ってくれ」
「うん」

 ダンデの高い体温を感じながら、私は3度目のキスを受け入れた。


【終】