不死鳥のごとく、燃え上がれ⑬

 衝撃が稲妻となっての胸に迫った。よろよろと2、3歩後退して、はグリを見上げた。

「嘘です」

 はグリの言葉を否定した。しかし、全ての表情の抜け落ちたグリの顔を目の当たりにして、本当なのかもしれない、と不安になった。

「嫌いです。鬱陶しいと、前から――」
「私が嫌いなら、戻ってこない!」

 は感情のままに叫んでいた。

「傘を差してもくれないし、上着なんて貸してくれません!」
「残念ながら、嫌いな人にも良心はありますので」

 淡々とした口調で答えるグリ。

「告白の時点で、酷く振ることだって、できたでしょう?」
「おれはカフェの店員。きみはお客様です。その線引きがある限り、おれは優しく断りますよ」

 そして、鼻でフッと笑った。

「……とても滑稽でした。完全に拒絶しなければ、きみはずっと店に来たでしょう? こんな、おれなんか・・・に」

 は思わず唇を噛んだ。
 とても悔しかった。グリを説得できないから、ではない。

(グリさんが分からない。何が彼をこうさせるの?)

 私を嫌いになってもいい。そこは――本当に、胸が張り裂けそうになるけれど――受け入れるとして、納得できないのだ。

(絶対に、この『嫌い』は本心じゃない)

 一切の感情を現さないことも、を煽るような言い草も、そう思わせるためのもののように、には感じられた。

 傘を打つ雨の音がうるさくなってきた。ここは、話し合いには不向きだ。

「グリさん、やっぱり戻りましょうよ。あのお店で一度仕切り直して――」
「話すことはありませんよ」

 ぴしゃりとグリが言った。

「何も、ないです」

 赤い瞳でを見下ろし、

「……さようなら」

 背を向けて、今度こその前から立ち去ろうとする。

(ダメ、行っちゃヤダ!)

 は手を伸ばす。

 ふざけるな、と思った。勝手にひとりで完結させないでよ、とも思った。

(グリさんは、何も分かっちゃいない)

 湧き上がった悔しさは怒りの炎となって、の身を燃やした。

「グリさんは私を舐めてます!!」

 ピシャッ!

 グリが足を止める。水飛沫が大きく跳ねた。

「私の、この気持ちが――あなたへの愛が――あなたに嫌われたくらいで止まると思ってるんですか!?」

 の叫びがこだました。

 腹式呼吸の要領で吐き出されたそれは、雨音に負けないほどの勢いがあった。

「嫌いなら嫌いでいいです! 悲しいけど……そうなっても仕方ないですけど!」

 は1歩、前に出た。

「私は、あなたが変わらず大好きですからっ! そこだけは、覚えておいてください!」

 たとえ、世界中の誰もがグリを嫌いになろうとも。

「たとえ、あなたが、あなた自身を嫌いであっても! 私は絶対、ぜーーーーったい! あなたが変わらず大好きです!」

 グリからの返事はない。

 沈黙が壁になり、2人を隔てていた。

 やがて、グリは降りしきる雨に紛れ、ミアレシティの夜に消えていった。