不死鳥のごとく、燃え上がれ⑥
「歌ってみようかな」
はポツリと呟いた。
「そうすれば、この胸の風船も、少しは萎んでくれるのかな」
「うーん。多分ね」
「グリさんとも、上手くお話できるかな」
「毎回好きって言わなくなるなら、大丈夫だよ」
「だよね!」
の表情が目に見えて明るくなる。なんだか食欲も湧いてきて、持て余していたチョコタルトも今なら完食できそうだ。その様子を見て、デウロはふにゃりとした笑顔を浮かべている。
「歌うなら、流行りの歌を教えてあげる。ってこういうの疎いでしょ」
素直にはうなずいた。クラシック中心なので、流行歌には詳しくない。
「流行りの中に、の気持ちにドンピシャな歌があるかも。音源も探しやすいしさ」
「ありがとう、デウロ」
デウロがスマホロトムを呼び出し、に様々な歌を教えてくれた。タイトルをいくつかリストアップしてもらったので、家に帰って聴いてみることにする。
自身の風船が、また少し膨らんでいるとは感じた。けれど、歌うことで空気を抜くことができるのなら……。あの店の常連客として通うことが許されるだろうか。
少しだけ胸が軽くなり、白と赤のキッチンカーを思い浮かべる余裕が戻ってきた。
(グリさんに会いたいな)
彼の柔和な笑顔を思い出し、目の奥がつんとした。今まで隠れていた気持ちが顔を覗かせている。
「これが解決したら、ヌーヴォカフェにも行きたいな。グリさんとグリーズさんのお顔は見たいんだよね。元気にしているかしら」
「元気だと思うよ。この間、MZ団でヌーヴォに行ったんだけどさ――あっ、店員さん、すみませーん! チョコタルト2つください!」
「デウロったら、食べ過ぎじゃない?」
「ダンスはお腹が空くんだよおー」
エテアベニューの陽射しがオレンジ色になるまで、2人はお喋りに興じた。
***
帰宅したあと、は早速デウロが教えてくれた流行歌を聴いてみた。
苦くて酸っぱいコーヒーを上手く飲み込めなかったような違和感があって、すっかり受け入れることはできなかったけれど、思わず口ずさみたくなるメロディーライン、考え抜かれたコード進行、曲を支えるリズム隊の存在をしっかりと感じ取った。
歌詞も非常に興味深いものだった。恋や愛をそのまま詞にしたり、何かの象徴として表現したり、韻を踏んで言葉遊びをしてみたり……。
(やっぱり音楽は面白いな。私の世界に、また、音が増えていく)
その中で、は1つの曲を選んだ。まるで、彼女の気持ちを丸ごと写し取ったような曲だった。
(歌うなら、これがいい)
グリを想って歌うなら、これが相応しいだろう。
深呼吸とともに、迷いがすっと流れた。