不死鳥のごとく、燃え上がれ②
デルビルも歩けばカフェに当たる――。
そんなことわざをが作り出すほどに、ミアレシティにはカフェが溢れている。
噂では、トリミアンを愛する人のカフェや、1杯10万円もするコーヒーを提供するカフェがあるのだとか。
けれど、が一番気に入っているのは、安くて、個性的で、大好きな人がいるカフェだ。
その名も「ヌーヴォカフェ」。
1号店から3号店まである、赤と白のキッチンカーが目印のカフェだ。
名物は「ひのこロースト」から「だいもんじロースト」まで選べる4種類のローストコーヒー。
ワンコインでお釣りが来るので、常に金欠のには大変ありがたい。
今日もは、相棒のチルットと共にメディオプラザの1号店へ向かう。
あの人に会えると思うと、足取りも軽やかだ。チルットがの歩みに合わせてハミングする。
いつもの赤と白のキッチンカーが見えてきて、は頬を緩ませた。
「こんにちは!」
「お、。来たな」
に気付いた眼鏡の女性店員――グリーズが手を挙げた。振り向いた勢いで、ボリュームのあるポニーテールが揺れる。
「いつもの『ひのこロースト』だろ? クロワッサン付きで」
「はい、お願いします!」
「あ、今日はクロワッサンのおかわりは遠慮してくれよ。今は在庫薄だから」
グリーズからビシッと向けられた人差し指を見て、はふふっと笑った。
(グリーズさん、言葉遣いはちょっと乱暴だけど、結構好きなんだよな)
おおよそ接客向きの言葉遣いではないが、それが逆に新鮮でよい。も常連客がそう話しているのを耳にしたことがある。
「大丈夫ですよ。今日はこれから学校なので」
「グリー! の『ひのこロースト』ひとつ」
グリーズの元気な声は、キッチンカーの奥までよく響く。
ヌーヴォカフェ1号店のマスター・グリは、すでにローストを始めていたが――グリがの来訪を告げたからだろう――がキッチンカーに近付くと、顔を上げて穏やかに微笑んだ。
「こんにちは、さん」
「こ、こんにちは!」
はやや声を固くして挨拶を返した。
「注文後は、席に着いて待っていてくださいね」
「はい! 今日も素敵ですね!」
「……座って待っていてくださいね」
それきりグリは黙り込み、焙煎に集中し始めた。
(マニュアル通りの対応がいい! さて、その真剣な顔、忘れないように目に焼き付けておかなきゃ)
漂うコーヒーの匂いを嗅ぎながら、はグリの一挙手一投足を見逃すまいと目を凝らす。
(ああ、優しいお顔……糸目がとっても素敵……)
は頬を紅潮させ、高鳴る胸をそっと押さえた。
「おーい。ー、席取っておくからなー。やれやれ、座って待ってろって言ってんのに……」
グリーズが何か言っているが、グリに夢中になっているの耳には届いた様子がない。
(グリさん。眼鏡が知的でカッコいい。短髪かと思いきや、実はポニーテールなんですよね。オシャレですね)
の内側から感情がどんどん溢れてきて、胸の辺りから喉を通って、音に載せろとせがんでくる。
(ダメよ。お仕事中なんだから、邪魔しちゃいけない)
けれど、もう、限界だった。湯水のように溢れてくる感情が、に「言え」と訴えかけてくる。
(よし、今日も――やるわ)
意を決して、は彼の名前を呼ぶ。
「グリさん……」
「はい?」
手元から目を離さずグリが短く返事をした。の横で待機していたグリーズが「あっ、そろそろ来るぞ」と呟く。
「私――」
は胸にそっと手を当て、もう日課となりつつある言葉を口にした。
「グリさん、あなたが好きです!!」