閑話1:相澤先生視点 - 3/3

初めてのラーメン

 飯でも食って帰るか。そんな提案をしたのは、このまま帰るのは名残惜しかったから。

「でもイレイザーさん、他の先生方が飲み会とか誘っても毎回断るじゃないですか。だから、結構嬉しいんです。こうやって帰るもの、ご飯食べるのも」

 はしゃぐイシュカが眩しくて、目を逸してしまった。最近、イシュカを可愛いと思う瞬間が増えた。何だ、これは。メールのやりとりも楽しんでいるから、イシュカの能天気さが俺に伝染ったのかもしれない。

 それにしても、だ。

 ラーメン食べて火傷したと狼狽えていると思ったら、今度は舌の具合を俺に見せてくる始末。

 だから、どうしてこうも無防備なんだ、お前は。
 他の奴の前でも同じことをするのか?

 そう考えると少し苛立つ。俺のように邪な気持ちを抱く奴がいたら、どうするつもりなのか。

 そこまで考えて、俺は我に返る。俺のように・・・・・って何だ。邪な気持ちを抱いて、とは何だ。

 悶々としていたせいでイシュカへの反応が遅れた。更には「さあ、とりあえず氷でも口に入れておけばいいんじゃないか」と冷たい返事をしてしまった。……いや、わりとこれはいつも通りの態度か。分からん。

 とはいえ、イシュカは俺の言葉の通り、お冷に入っている氷を口に含み、飴のように転がしていた。

「伸びるぞ、麺」
「大丈夫です。えーと、こうしてこうします」

 れんげに麺とスープ、その他のトッピングを乗せて小さなラーメンを作るイシュカ。なるほど? そうしてやれば、一口で食べ切れるし火傷もしにくい、のか……?

「……」
「え、何で黙ってこっち見るんですか」

 女は皆、こういうことをするのか?
 イシュカがやると、どうして可愛いと思うんだ?

 パアン!!

「イレイザーさん!? どうしたんですか!? どうしていきなりほっぺ叩いて!?」
「いや、……気合を入れた?」
「ら、ラーメン食べるのにですか?」

 最近、可愛いと思う度に頬を叩くのが習慣になっているな……。本人の前で叩いたのはこれが初めてだが。お陰で最近、両頬が痛い。腫れてないよな?

「量多かったんですか、私も手伝いましょうか?」

 見当違いの提案。まだ自分の分が残っているというのに。
 ああ。そういうところが、俺は気に入っているんだな。

「いや、気にするな。お前は火傷に気を付けて、自分の分を食い切れ」
「でも」
「これくらい食べられる」

 イシュカは素直に「分かりました」とうなずき、麺を啜り始めた。
 食べるのは遅かったが、表情から「美味い」と言っているのが伝わってくる。

「美味いな」
「はい! たまには食べて帰るのもいいですね」
「ああ」

 イシュカと食べるから美味いんだ、とは言えなかった。

 俺が言うには、少々気障すぎるので。

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