幕間3:【if番外編】学校1の人気者に告白されたけど、私は絶対騙されない!【エイプリルフール】

「好きですよ、後輩さん」

 夕暮れ。放課後。部活。2人きりの教室。

 シチュエーションだけ見れば、なんとも甘酸っぱい青春の1ページ

 そりゃあ私だってさ、ロマンチックなものは好きだよ。脳みそをフル活用し、私と未来のカレシの萌えるシチュエーションなんかを考えたりしてね、ひとり悶えたりするわけだ(授業中妄想が止まらなくなって先生から『ニヤけるんじゃない』と一喝されたけども)。

 でね。誰だって1回くらいは妄想するじゃん? クラスの気になる男子からの告白とか。学校1の人気者からの告白とか。

「付き合ってくれませんか?」
「わ、私がですか? 先パイと?」

 まさかね、その妄想が現実になると思わなかったんだよ。

 相手は部活の先パイだ。親のどっちかが外国人らしい。ハーフってやつだ。金髪に灰色の瞳、2メートルはありそうな背丈。
 勉強もスポーツも万能。人当たりもよくて、生徒だけでなく先生からの覚えもいい。

 そんな「人気者」が、私みたいな所謂「モブ」女子高生相手に告白なんて、冗談にも程があるだろう。

「……罰ゲームでしょ、これ」
「違いますよ。心からの言葉です」

 にっこり笑うウォロ先パイ。しかし私は騙されたりしない。

「ごめんなさい。無理です」

 ウォロ先パイには騙されたりしない!

「先パイさあ、人なんてキョーミないんでしょ?」

 ウォロ先パイの笑顔がみるみるうちに消えていく。口角は下がり、目は鋭くなり、口調は冷たいものとなる。

「というと?」
「いやあ、だってしょっちゅうカノジョ変わるじゃん」
「それだけで、判断するのですか」
「見ちゃったから」
「見た?」
「女の子泣かせてるの。昇降口で、見た」

 あれは1ヶ月前の、掃除当番の日。じゃんけんに負けてゴミ捨て場に向かっている最中だった。昇降口を通りかかったらさ、言い合ってんだもん。女の子と。

 ――面倒なんですよ。そういうの。ジブンはもう、アナタに興味ないので。

 女の子の方は、何でとか、まだ1週間も経ってないのにとか、涙声で訴えていた。別れに納得してないようだった。

 ――言いましたよね。興味が失せてしまったんです。アナタ、中身が空っぽです。流行りのあれそればかり追いかけて。ミーハーにも程がありますよ。のように何か1つ、追い求めるものがないんです。趣味が合いません。

 うわあ。そこまで言うんすか? 先パイの言葉は針を通り越して釘だ。釘をハンマーで執拗に身体にぶっ刺してる。そりゃカノジョの方も泣くに決まってらあ……。

 蚊の鳴くような声で「さいてい」と呟いて、元がついたカノジョさんは逃げるようにその場を去った。

 もうね、出ていけるわけないじゃん。素知らぬ顔でゴミ捨て場に行けないのよ。他に道なんてない。ここを通るしかない。かくれんぼのように息を潜めて、じっとウォロ先パイがどっか行くのを待っていた。

 ――退屈ですね。恋人でもできれば、この渇きを癒せると思ったのに。

 身を隠しているから、ウォロ先パイの表情なんて確認できるわけがない。でも、きっと“やべぇ顔”してるんだろうな。

 最低最悪女の敵。

 学校の人気者の裏の顔を見たような気がした。

 あの日からちょくちょくウォロ先パイの動向に注目していたが、表向きは人気者だからカノジョが絶えないの。カノジョになりたい女子が多いからだろうね。

「……別れた人たち皆、口を揃えて『私が彼と合わなかった』『彼の理想になれなかった』って言ってるんだよ。ウォロ先パイは全然悪者にならないの。異常だよ。変だよ。絶対裏があるもん。脅してたりしますよね? だから私、絶対ぜーーーーったい! ウォロ先パイとは付き合わない! 無理!」

 バッテンマークを腕で作る。完全拒否アピールだ。

「……そう、ですか」

 ウォロ先パイは薄っすらと笑う。

「そんなことをバカ正直に言ったら、目をつけられると思わないんですか?」
「いいよ、別に。むしろ先パイに嫌われたいから正直に明かしたんですー!」

 先パイの本当の性格を言いふらしても誰も信じてくれないだろうな。私はモブ。先パイは人気者。人望がないわ。

 大体、元々おかしかったんだよな!? 何でこうして先パイと接点があるんだよ!

「つーかさあ、漫研部ウチに入部しているのがおかしいって! そりゃ同好会から昇格するために名前だけ必要で、誰でもいいからってダメ元でお願いしたらオッケー出してくれて……。幽霊部員で構わないって言ったのに、よく部室来るし! えっ、やっぱ暇つぶし? 退屈しのぎ?」
「否定はしませんよ」

 ウォロ先パイはぐっと顔を近付けた。普段は隠れている方の左目が、髪の隙間から少しだけ見える。

「どうして入部したと思います?」
「いや知らんて」

 遠くから野球部の野太い掛け声が聞こえる。吹奏楽部が練習している楽器の音。誰かの笑い声。カラスの鳴き声。
 窓からオレンジ色の陽射しが差し込んで、私と先パイを照らす。

「それは」

 先パイが私の髪に触れた。そして、一房耳にかける。耳殻に指がちょこっと触れた。

「後輩さんがいるからですよ」

 耳元で囁かれる。吐息混じりの言葉を流し込まれる。

「好きですよ。これは、本当のことです」

 瞬間、先パイの鳩尾辺りに拳をめり込ませた。

「ふんっ!」
「――っ!?」

 先パイは倒れた!
 私は経験値800を手に入れた!

 ってふざけてる場合でもないか!

「嘘つき! 先パイのその手には乗りませんから! そうやって色んな女の子に粉かけてるんだ! むーりー! いくら好きって言われても付き合うとかないんで! さいなら!」

 カバンに荷物を入れて、私は部室を飛び出した。

 背中に寒気が走っている。いやいや、やっぱ私が恋とか無理だよね!?

 火照る頬に気付かないふりをして、私は帰路につくのだった。

 私は知らなかったのだ。

「……ふふ。やっぱり、いいですね。ワタクシの見立ては間違いない。退屈しのぎになりそうです。あの後輩がいるのなら」

 床に蹲り不敵な笑みを浮かべる人気者は、

「絶対にオトしてやりますよ、後輩さん」

 逆に闘志を燃やしていたことを。

 次の日から猛烈なアプローチがあることを、私はまだ、知らなかった。

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